ログ7

テーマ

・国際金融論における、外国為替に関する論点の再整理。 

既に分かっていること

 ・論点として、「為替相場の決定要因」「国際収支」「為替相場制度」「国際通貨体制の変遷(含む、欧州通貨統合)」などが挙げられる。

知りたいこと

 ・上記論点の中でも、「物価と為替レートの関係」はどのように整理されるのか。

・仮説としては、そもそも物価が抑えられる局面というのは、引締め的な金融政策が行われるとき。金利上昇に伴って物価が抑え込まれるという理解で良いか。

調べ方

・①コアテキスト国際金融論2章と、クルーグマン国際経済学第3部を参照。 

・②その他、少しテーマから外れて、そもそもの金融政策の枠組みを復習して、マクロ政策の観点からの為替を捉え直すために、金融政策の教科書探し。

分かったこと

・①未了。

・②「現代の金融入門」(池尾和人)、「金融政策の誤解」(早川英夫)を入手。

さらに知りたいこと

・②を概読したところ、第3章に基本事項に関する記述があることを確認。

調べ方

 

活用方法

 

備忘・キーワード

ハイパワードマネー、共通担保資金オペ、インフレターゲティング

参考

 

ログ6

テーマ

 ・金融政策と為替に関する最低限の知識。

既に分かっていること

為替相場実体経済との関係には、通貨安⇒経済改善以外の関係があるかどうか。為替相場とマクロ政策の関係はどうなっているか。
②外為市場の流動性とマクロ政策との関係について、どんなキーワードがあるのか。

知りたいこと

・テキスト①「身近に感じる国際金融」第4章、②「はじめて学ぶ国際金融論」第6章
 

調べ方

・①については、そもそも為替相場制度が為替相場に与える影響を整理。固定相場制の中でも、カレンシーボードとクローリングペッグの違い、等を整理。キーワードは、マンデルフレミングモデル、国際金融のトリレンマ
・②については、ビッドアスクスプレッドの決定要因としてマーケットマイクロストラクチャーを用いた仮説、「マイクロストラクチャー・モデル」を用いた分析が出来そう。キーワードは、インフォームド・トレーダー、非対称情報モデル、オーダーフロー、強効率性。

分かったこと

・マイクロストラクチャーモデルを用いたビッドアスクスプレッドの分析は、要するに、強効率性が働かない状態ではスプレッドが開きうるという話か。だとしたら、流動性が十分でないことによるスプレッドのワイド化と、情報効率性が十分でないことによるスプレッドのワイド化は、識別することができるのか。
・いずれにせよ、もうすこしMSモデルについて、概要を掴む必要がある。
 

さらに知りたいこと

・①については、為替相場制度以外の切り口でも整理。

・②については、「はじめて学ぶ国際金融論」第6章を読みこむ。
 

調べ方

 

活用方法

 

備忘・キーワード

マンデルフレミングモデル

国際金融のトリレンマ

カレンシーボード

クローリングペッグ

インフォームド・トレーダー

非対称情報モデル

オーダーフロー

強効率性

参考

 

ログ5

テーマ

・「国際金融論」の教科書で目次マトリクスづくり
 

既に分かっていること

 ・金融政策に関する最低限の知識。

知りたいこと

 ・マクロ政策と為替の関係について、概観を知りたい。どんな論点があるか、整理したい。

調べ方

 ・書店で目についた国際金融論の教科書(ないしは教科書的テキスト)について、目次マトリクス作成。
・目次の探索には、webcat plus minus のほか、honya club databaseを活用。
http://webcatplus.nii.ac.jp/#/176ef018ca4
https://www.honyaclub.com/shop/g/g18445157/

分かったこと

・多くの教科書が、為替の決定要因に言及。その際の論点は、金利(≒アセットアプローチ?)、貨幣量(≒マネタリーモデル?)、物価(≒購買力平価?)が主なもの。
為替相場とマクロ経済の関係については、為替(通貨安政策)⇒経済回復というアプローチがありそう。

さらに知りたいこと

・各論点について、目次情報だけでなく、各章の要約を知りたい
・そのために、上記の教科書がどこで手に入るのかを知りたい。
 

調べ方

・都内の図書館データベースの利用。
 

活用方法

 

備忘・キーワード

 

参考:国際金融論・目次マトリクス

 

f:id:zshio3721:20210327222252p:plain

新・国際金融のしくみ 外国為替のしくみ
 ―国際的な支払いのしくみ
外国為替相場
 ―さまざまな為替相場の種類と性格
外国為替市場
 ―グローバルなネットワーク
為替リスクとヘッジ手段
 ―為替リスクをコントロールするさまざまな手法
国際収支
 ―国際取引を記録する統計のしくみ
為替相場の決定理論
 ―為替市場の需給を決定するさまざまな要因
為替相場とマクロ経済
 ―マクロ経済に影響を及ぼす為替相場
国際通貨制度の変遷
 ―どのような歴史を経て今日の姿になったか
欧州通貨統合
 ―長年の取組みで実現した単一通貨が抱える課題
国際資本移動の功罪
 ―金融のグローバル化の問題点と解決策
国際通貨の興亡 テクノロジーが変える国際金融
現代国際金融論 第1部
国際金融の基礎
(国際決済と外国為替
 国際収支と国際賃借 ほか)
第2部
現代国際金融の構図
(企業の国際化と国際金融
 金融機関の国際化と国際業務 ほか)
第3部
変貌する世界経済と国際金融
(変動相場制と国際政策協調発展
 途上国と開発金融 ほか)
第4部
国際通貨体制の変遷と課題
(パックス・ブリタニカの盛衰
 パックス・アメリカーナ時代 ほか)
               
コア・テキスト国際金融論 第1部 
基本的視点(基本的視点の設定;マクロ的視点の導入:国民経済計算と国際収支会計)
第2部 貨幣と為替レート(貨幣とマクロ経済;為替レートと外国為替市場;金利と為替レート:資産市場における裁定と均衡為替レートの考察;物価と為替レート:生産物市場における裁定と均衡為替レートの考察) 第3部 開放マクロ経済と政策:金融・財政政策と為替政策(為替レートと実体経済;為替レートと開放マクロ経済政策;為替政策:為替介入と為替相場制度) 第4部 発展的トピック(国際金融を取り巻く難問;為替レートの理論と現実:実証分析と為替レートをめぐるパズル)                
はじめて学ぶ国際金融論 1 為替レートと経済活動
 ―円高とは?円安とは?
2 外国為替市場と為替制度
 ―為替レートはどこで決まっているの?
3 購買力評価
 ―ハンバーガーの価格で為替レートが決まるの?
4 金利平価モデル
 ―外貨預金は本当に得するの?
5 マネタリー・モデル
 ―金融緩和政策で円安に?
6 効率的市場とマイクロストラクチャー
 ―為替レートはなぜ大きく短期的に変動するの?
7 為替介入
 ―円安政策で経済回復?
8 固定相場制と通貨危機
 ―通貨の価値が5分の1に?
9 統一通貨圏と欧州経済危機
 ―ユーロ危機はなぜ起きた?
     
身近に感じる国際金融 0 身近に感じる国際金融 1 外国為替市場と為替相場―為替の動きをいかに読むか 2 国際収支と対外資産負債残高
 ―どの国と、何をどれだけ取引しているのか
3 国際金融市場
 ―どこで、誰が、何を取引しているのか
4 為替相場制度と経済政策
 ―政府は為替相場とどう向き合うか
5 国際通貨制度の歴史
 ―基軸通貨はどのような役割を果たしたか
6 金融危機と危機への対応
 ―国際金融ガバナンスはどのような役割を担うか
7 新しい国際通貨体制の模索
 ―ドル体制はいつまで続くか
       
クルーグマン国際経済学
 下(金融編)
第3部 為替レートと開放経済マクロ経済学
国民所得計算と国際収支;
 為替レートと外国為替市場:
 アセットアプローチ;
 貨幣、金利、為替レート;
 物価水準と長期的な為替レート;
 短期的な産出と為替レート;
 固定為替レートと外国為替介入)
第4部 国際マクロ経済政策
 (国際通貨システム:
 歴史のおさらい;
 金融のグローバル化
 機会と危機;
 最適通貨圏とユーロ;
 発展途上国
 成長、危機、改革)
                   

ログ4

テーマ

 ・「マイナス金利政策」の定義の再確認

既に分かっていること

 ・従来の金融政策手段として、金利操作と公開市場操作があったことは理解(準備率操作は近年利用がないためいったん除外)。

知りたいこと

 ・マイナス金利政策は、これまでの議論のどこに位置づけられるのか?

調べ方

・複数の電子辞典を参照。記述量の少ない順に並び替え、キーワードを抽出する。

分かったこと

・マイナス金利政策は、伝統的な金融手段から始まって、「ゼロ金利政策」「量的緩和政策」「包括的金融緩和」「量的・質的金融緩和」を経て導入されたもので、従来の金融手段の枠組みに必ずしもおさまらないものである。
・つまり、「金利政策」と銘打っているが、いわゆる伝統的な金利操作とは一線を画すものである。
・1970年代のスイスで、海外資産の流入に伴う通貨高を通じたデフレを抑制するために、外国人資産を対象にマイナス金利政策が導入されたことがある。

さらに知りたいこと

 ・為替と金融政策の関係についての調査に移る。

 

調べ方

・書誌探し。まずは経済学の教科書。国際金融論などが適当か。
 

活用方法

 

備忘・キーワード

 

参考:マイナス金利政策

 <ニッポニカからの表抜粋>

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説
民間銀行などが日本銀行にお金を預ける際、金利をもらえるのではなく逆にお金を払うことにする政策。銀行は損するため、日銀に預けず企業への貸し出しにお金をまわすよう促すねらいがあった。金利が下がり、投資を活発にして経済成長につながる一方で、銀行はもうけを得にくくなる
知恵蔵miniの解説
民間金融機関が中央銀行に預ける預金の金利をマイナスにする金融政策。金融機関が中央銀行に預金の利息を支払うという異例の措置をとることで、預けていたお金を企業や個人への貸し出しに回すよう促し、経済の活性化につなげる狙いがある。一方で、運用難により金融機関の収益が悪化する懸念もある。2015年までにマイナス金利政策を導入したことがあるのは、スイス国立銀行スウェーデン国立銀行デンマーク国立銀行ヨーロッパ中央銀行(ECB)の四つ。16年2月からは日本銀行でも導入が決定している。日銀の政策では、当座預金金利全体ではなく一部をマイナスにすることで、金融機関の収益が大きく悪化しないよう配慮している。
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
デフレーション(デフレ)から脱却し、物価上昇を促すとともに、投資や消費を活発にする目的のために、市中銀行中央銀行に預ける当座預金の一部について、中央銀行が手数料の支払いを求める政策のこと。市中銀行中央銀行に預ける資金に手数料が発生することから、中央銀行に預けずに企業や個人への貸出し等にシフトされ、経済の活性化につながると期待される。古くは1970年代にスイスがマイナス金利政策を導入したことがあるが、これは他国からの資金流入に伴う通貨高により引き起こされるデフレを防ぐために行われた政策であり、当時は国外から流入する外国人の金融資産のみが対象であった。2000年以降では、スウェーデンで2009年から2010年にかけて、デンマークで2012年から2014年4月まで当該政策が実施された。その後、2014年6月には主要国・地域として初めてヨーロッパ中央銀行(ECB)がマイナス金利政策を導入した。そのために、ユーロを導入していないデンマークでは自国通貨高圧力を下げる目的で、ふたたび2014年9月にマイナス金利政策を導入した。日本においても2016年(平成28)1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」としてマイナス金利政策を導入した。さらに、ユーロを導入していないハンガリーでも2016年3月から当該政策を導入している。
ここで各国のマイナス金利政策導入の目的は、インフレ率上昇による物価安定と自国通貨高圧力緩和による為替(かわせ)相場安定に分かれるものの、当該政策の効果に関しては現状では明確に現れているとはいえない(表)。
非伝統的金融政策
マイナス金利政策は、「量的金融緩和政策」(quantitative monetary easing policy:QE)といわれる政策と同じく、「非伝統的金融政策」(または「オルタナティブな金融政策」)とよばれている。他方、従来、中央銀行においては、金融政策を運営するうえで操作対象となる短期金利無担保コールレート・オーバーナイト物)を政策金利とし、日々短期金融市場の資金量を調節(金融調節)することで政策金利に誘導するとともに、必要であれば政策金利を上下に動かすことで、当該国の物価の安定および経済の持続的な発展を図ってきた。このように日々の金融調節や政策金利の変更等を通じて物価の安定および経済の持続的な発展のために行われる金融政策のことを「伝統的金融政策」という。
伝統的金融政策からマイナス金利政策に一足飛びに移行していったわけではない。すなわち非伝統的金融政策においても複数のレベルが存在する。日本の非伝統的金融政策は、マイナス金利の要素を付加した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」に至るまでに、「ゼロ金利」「量的緩和」「包括的金融緩和」「量的・質的金融緩和」を経ており、5段階のレベルがある(清水功哉(しみずいさや)著『緊急解説 マイナス金利』2016)。なお、2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入されたので、この政策も含めるとレベルが六つ存在することになる。
[前田拓生 2017年3月21日]
日本
マイナス金利付き量的・質的金融緩和
日本においてマイナス金利政策にあたる「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が導入されたのは2016年1月である。この政策では、一般の預金者に直接的に影響するような預金金利等を「マイナスにする」ということではなく、市中銀行等が保有する日本銀行(日銀)当座預金の一部について「マイナス0.1%のマイナス金利を適用する」というものである。ここでマイナス金利になるのは、2013年4月から導入された、従来の「量的・質的金融緩和」(レベル4)のもとで各金融機関が積み上げた残高等を除き、当該政策が実施されて以降に積み上げた残高に対して適用される。日銀当座預金金利をマイナス化するということは、イールドカーブ(利回り曲線)の起点を引き下げることを意味し、従来通りの大規模な長期国債買入れとあわせることで、金利全般により強い下押し(下落)圧力を加えることができる。さらにマイナス金利幅を拡大することで政策効果を高めることも可能になることから、政策の自由度も広がるというメリットもある。
 このように従来の「量」と「質」に「マイナス金利」を加えた三つの次元の追加的な緩和が可能なスキーム(計画)にすることで、2%の「物価安定の目標」の早期実現を図った。
[前田拓生 2017年3月21日]
マイナス金利政策の問題点
日銀当座預金金利の一部をマイナス化したことによってイールドカーブの起点が引き下がるとともに、量的・質的金融緩和政策として引き続き強力に長期国債の買入れを継続したことで、金利全般にいっそう強い下押し圧力が働いた。その結果として、イールドカーブの起点がマイナスになり、より長い期間の金利についてもフラット(水平)化したために10年国債もマイナス圏を推移するようになり、長短金利差(イールドスプレッド)は縮小した。市中銀行の伝統的なビジネスモデルは、預金を預かり企業等に貸し出すことであるため、預金金利はマイナスにできないことから、金利全般がマイナス圏で推移しつつ、イールドスプレッドが縮小すると、市中銀行の収益構造が成立しづらくなってしまうという問題が生じる。また、長期資金を取り扱う年金および保険についても運用が困難となってしまう。そのため、金融機関では総じて当該政策に対する評価は厳しいものが多い。加えて、物価動向についても、前年比でマイナスになるなど、当該政策を導入してもなお引き続き下押し圧力が存在している。
[前田拓生 2017年3月21日]
「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入
こうした問題に対処しつつ、さらに政策効果を高めるために非伝統的金融政策のレベル6にあたる「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が2016年9月に導入された。当該政策では、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の弊害に対処するための「イールドカーブ・コントロール」(長短金利操作)と、時間軸政策の強化としての「オーバーシュート型コミットメント」(2%の物価安定目標を超えるまで金融緩和を継続すると約束すること)を、そのおもな内容としている。
[前田拓生 2017年3月21日]
『西本さおり・川野祐司「デンマークスウェーデンにおけるマイナス政策金利」(「経済学部のワーキングペーパー」No.8・2013・東洋大学経済学部)』▽『吉田健一郎「欧州マイナス金利の日本への示唆」(「みずほインサイト 欧州」2016年2月19日・みずほ総合研究所)』▽『廉了「欧州に見るマイナス金利が銀行に及ぼす影響」(「経済レポート」2016年5月27日・三菱UFJリサーチ & コンサルティング)』▽『清水功哉著『緊急解説 マイナス金利』(2016・日経プレミアシリーズ)』
[参照項目] | イールドカーブ | 金融政策 | 金利政策 | 日銀当座預金 | マイナス金利 | 量的緩和 | 量的・質的金融緩和

ログ3

テーマ

・「預金準備率操作」の定義の再確認
 

既に分かっていること

公開市場操作は、短期金利「誘導」の手段であって、金利「操作」の手段ではない。したがって、金融政策の主な手段である、①金利操作、②公開市場操作、③預金準備率操作のうち、②と①は(当然)独立して存在する。
・また、資金供給/吸収オペは、①ではなくて②の手段。

知りたいこと

・改めて、②が資金供給/吸収オペで構成されていることを確認。
 

調べ方

 複数の電子辞典を参照。記述量の少ない順に並び替え、キーワードを抽出する。

分かったこと

・預金準備率操作は、支払準備率操作と同義だが、いずれにせよ、コトバンクでの記載量が他の政策手段と比して限定的。
・その理由は、準備率操作が、2000年以降行われていないことが考えられる。

さらに知りたいこと

・これまでを総括すると、中央銀行の主な政策手段は、金利操作か公開市場操作になるが、金利のマイナス幅深掘り余地に鑑みれば、結局は公開市場操作しか残されていないということになるか。
・現行のマイナス金利政策は、これまでの議論のどこに位置づけられるのか。

調べ方

コトバンクで複数の電子辞典を参照。記述量の少ない順に並び替え、キーワードを抽出する。

活用方法

 

備忘・キーワード

 

参考:支払準備率操作 

世界大百科事典内の支払準備率操作の言及
【金融政策】より
公開市場操作と相対方式の大きな違いは,前者が中央銀行のイニシアティブで一方的に行いうるのに対して,後者は相手方との合意が必要なこと,前者が公衆の保有する通貨量に直接,影響を与えうるのに対して,後者は金融機関の準備に影響を与え,間接的に通貨量に影響を与えるにすぎないことである。 支払準備率操作は,金融機関に対して預金の一定割合を現金または中央銀行への預金の形で保有することを義務付けるとともに,金融の緩急に応じて,この割合すなわち法定準備率を変更する政策である。準備率を状況に応じて変動するので可変的支払準備制度とも呼ばれる。…
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
銀行その他の金融機関は、顧客からの預金の引出しに備えて一定の支払準備を保有しなければならないが、預金などの一定割合(支払準備率)の資金を無利子で強制的に中央銀行に預け入れさせ、この準備率を随時上下に変更することによって、銀行の信用拡大のベースになる現金準備額を直接増減して、その与信活動を調節する政策手段である。すなわち、銀行の与信活動の抑制のためには支払準備率が引き上げられ、逆にそれを拡大させるためには支払準備率が引き下げられる。この制度は、もともとアメリカにおいて預金者保護を目的として創設されたが、1930年代ごろから銀行の余剰資金を吸収するために金融政策手段として用いられるようになった。海外先進国では第二次世界大戦前から支払準備率は公定歩合操作、公開市場操作とともに伝統的な政策手段の一つになっていた。公定歩合操作や公開市場操作の効果が市場機構を通じて波及するのに対して、支払準備率操作は対象金融機関に対して強制的かつ一律的に適用されるので、金融機関の流動性への影響は直接的であり、強力かつ持続的である。したがって、これは金融政策の転換を示すなど、公定歩合の変更と組み合わせて実施されてきた。
日本では、1957年(昭和32)「準備預金制度に関する法律」が制定され、1959年9月に初めて同法に基づいて銀行預金に対し準備率が設定された(準備率は金融機関、預金残高、債務の種類などによって異なる)。その後1972年には海外からの短資流入に対処して同法の改正により対象金融機関・債務が拡大され、とくに1973~1974年の金融引締めには再三にわたり準備率は引き上げられた。しかし近年、海外の先進国の例をみても、準備率操作は政策手段としてあまり用いられなくなり、日本でも1991年(平成3)10月の準備率の引下げを最後に2008年現在までその変更は行われていない。

ログ2

テーマ

 ・「公開市場操作」の定義の再確認

既に分かっていること

公開市場操作は、短期金利「誘導」の手段であって、金利「操作」の手段ではない。したがって、金融政策の主な手段である、①金利操作、②公開市場操作、③預金準備率操作のうち、②と①は(当然)独立して存在する。
・また、資金供給/吸収オペは、①ではなくて②の手段。

知りたいこと

 ・改めて、②が資金供給/吸収オペで構成されていることを確認。

調べ方

 複数の電子辞典を参照。記述量の少ない順に並び替え、キーワードを抽出する。

分かったこと

 ・公開市場操作は、金融政策手段の一つ。中央銀行が、公開市場(⇔インターバンクマーケット<コール市場、手形市場>)において、有価証券の売買を行うことで、市中の資金量(=中銀信用、ベースマネーハイパワードマネー)を調節すること。
公開市場操作の目的は、市中の資金量の増減を通じて、金利水準を誘導すること。売買の対象は、手形、政府短期証券(TB)、国債等。
・調節の手法は、中銀が有価証券を売却することで資金を引き揚げる売りオペ(資金吸収)と、中銀が有価証券を購入することで資金流通量を増大させる買いオペの二つ。金利水準は、それぞれ上昇/低下方向に誘導される。
公開市場操作は、中銀貸出政策と比較して、時期/金額/条件を中銀が決定でき、柔軟な政策と言える。

さらに知りたいこと

 ①調節によって、本当に金利は誘導されるのだろうか。誘導に失敗した事例はあるのだろうか。
②準備率操作についても、同様に整理。
③具体的に、どれくらいの頻度で調節が行われるのだろうか。一度の調節で、大体いくらくらいの売買が行われるのだろうか。
④TBの厳密な定義。

調べ方

・まずは、②について、同様に事典引き。その後は一度、金融政策の全体像に立ち返り、為替等との接点を探ってゆく。

活用方法

 

備忘・キーワード

 

参考:公開市場操作

精選版 日本国語大辞典の解説
?名? 中央銀行が公開の市場に出動して有価証券や手形類を売買し、金融市場に流通する資金量を調節する政策手段。公開市場政策。オープンマーケット‐オペレーション。
デジタル大辞泉の解説
中央銀行が行う金融政策手段の一。中央銀行(日本では日本銀行)が市場の資金量、通貨の調整を図るために、公開の市場で公債・手形などの有価証券の売買を行うこと。売りオペレーションと買いオペレーションがある。オープンマーケット‐オペレーション
ASCII.jpデジタル用語辞典の解説
中央銀行(日本では日本銀行)が行なう代表的な金融調節手段のひとつで、通貨量の市場流通量を調整すること。市場に流通する通貨量が多すぎる時は、中央銀行保有している債権類を売却し、資金を回収することで市場での資金の供給量を減らす(売りオペ)。逆に市場に流通する通貨量が少なすぎる時は、市場から債権類を買い上げて市場での資金の供給量を増やす(買いオペ)。
ナビゲートビジネス基本用語集の解説
日本銀行中央銀行)が行う代表的な金融政策手段の1つ。日本銀行保有している債権類を一般公開の市場において売買することで、市場での資金の供給量を調整する。 債権類を売却することを「売りオペ」といい、これにより市場にだぶついている資金を吸収する。逆に民間が保有している債権類を日本銀行が買い取ることを「買いオペ」といい、これにより市場に資金を放出する。 政策金利を直接操作するわけではないが、「売りオペ」の結果として金利の上昇、「買いオペ」の結果として金利の低下が促される。
世界大百科事典 第2版の解説
貸出政策(割引政策,公定歩合政策ともいう)および支払準備率操作と並ぶ,中央銀行の伝統的な金融政策手段の一つ。具体的には,中央銀行が公開市場において手形,政府短期証券(大蔵省証券=TBなど),国債などの売買を行い,中央銀行信用やベース・マネー(現金と中央銀行預け金の合計。マネタリー・ベース,ハイパワード・マネーともいう)を増減させることを指す。 ここでいう公開市場とは,銀行間市場inter‐bank marketと対置される概念で,日本のコール市場,手形売買市場,あるいはアメリカのフェデラル・ファンド・マーケットのように,中央銀行と民間銀行という銀行だけが参加できる銀行間市場とは異なり,銀行以外の企業や個人も参加できる金融市場を指す。
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
中央銀行が金融を調節する手段の一つとして,一般公開の市場に出動し,公債や手形などの有価証券の売買を行なうこと。市場で中央銀行が手持ち有価証券を売却すれば(売りオペレーション)市場の資金は引き揚げられ,逆に有価証券を購入すれば(買いオペレーション)資金が市場に供給されることとなり,公定歩合政策,支払準備操作とともに中央銀行が有する有効な金融政策の手段となる。イングランド銀行によって 19世紀中頃から行なわれた「公債による借入」borrowing on consolから始まったが,当時は金利政策の補助手段とみなされていた。1920年代に入ってアメリカ合衆国連邦準備銀行によって本格的に採用され,一躍脚光を浴びた。日本では,公開市場の発達の遅れから,日本銀行は取引先金融機関と相対で債券売買を行なってきた。古くは日本銀行が直接引き受けた国債を市中に売却して,財政によって散布された資金の吸収に努めた。また第2次世界大戦後にはドッジ・ラインの実施に伴うデフレーション的影響を緩和するため,日本銀行は銀行保有国債などの買い操作を行なった。その後はオペレーション対象の適格証券が不足したこともあって,あまり活発に実施されていなかったが,1962年に新金融調節方式として本格的に登場。初めはコール市場をおもな対象としていたが,1972年からは優良手形の手形オペレーションを開始。その後金融自由化の進展に伴い,さらに対象が広がった。
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
オープン・マーケット・オペレーションopen market operationともいい、中央銀行が金融市場や債券市場に対して手形や債券を売買して、銀行の現金準備を増減させ、また市場金利に影響を与えて、ひいては銀行の与信活動、通貨供給量を調節する政策手段をいう。中央銀行が手形や債券を買う場合を買い操作(買いオペレーション)、逆に売る場合を売り操作(売りオペレーション)という。買いオペレーションは銀行の現金準備の増加となり信用拡大的に働き、売りオペレーションは反対に銀行の現金準備の減少となり信用収縮的に作用する。ところで、現金準備の供給手段としての買いオペレーションと中央銀行貸出とを比較すると、中央銀行貸出は市中銀行の借入需要を受けて行われるのに対して、買いオペレーションは時期、金額、条件について中央銀行のイニシアティブによって実施される点で、政策効果としてはより積極的、弾力的である。
 日本での公開市場操作の歴史は古いが、本格的に実施されたのは1932年(昭和7)以降のことである。すなわち、満州事変以降、国債の大部分が日本銀行引受けによって発行され、これによって巨額の財政資金が民間に散布されたので、日本銀行はインフレの発生を防ぐため、引き受けた国債の売りオペレーションを積極的に行った。第二次世界大戦後では、1962年(昭和37)11月以降、日本銀行はいわゆる新金融調節方式として、従来の日本銀行貸出にかえて債券(おもに政府保証債)の買いオペレーションを活発に行うようになった。その後、国債が発行されてオペレーションの対象証券となり、さらに手形その他各種の短期市場証券のオペレーションも行われるようになった。国債オペレーションは、おもに経済成長に伴って増大する民間の現金需要に対応するために行われ、手形オペレーションは、金融市場の短期的調整のために行われている。そのほか日本銀行は、とくに市場の余剰資金を吸収するために、日本銀行振出手形(売出手形)や日本銀行保有政府短期証券の売りオペレーションを、また市場資金の調整の多様化を確保するために、CP(コマーシャルペーパー)オペレーションなども行ってきた。[石田定夫]
[参照項目] | 売りオペレーション | 買いオペレーション | 金融政策 | 中央銀行 | 日本銀行

ログ1

テーマ

・金融政策の定義の再確認
 

既に分かっていること

 ・金融政策の一手段として、公開市場操作がある。公開市場操作には、金利操作と、流通する通貨量の操作の二種類がある。

知りたいこと

 ・公開市場操作以外の金融政策手段

調べ方

 複数の電子辞典を参照。記述量の少ない順に並び替え、キーワードを抽出する。アウトプットは下記「参考」を参照。

分かったこと

 ・金融政策の主たる手段は、①金利操作、②公開市場操作、③預金準備率操作の三つ。①は、伝統的な金融政策。
政策金利は、無担保コール翌日物無担保コール翌日物は、民間金融機関同士が短期資金を貸借する、コール市場金利
・①の主たる手段は、資金を供給するか、吸収するかの二つ。供給手段は、A:共通担保資金供給オペ、B:資産買い入れオペ、C:国債買い現先オペの三つ。吸収手段は、D:手形売出しオペ、E:国債売り現先オペ、F:国庫短期証券の売却オペの三つ。

さらに知りたいこと

公開市場操作、および預金準備率操作の具体的手法
・A~Fの具体的手法。ただし、簡単にイメージが付けばいい。
・ニッポニカには、現代の金融政策の簡単な変遷も併記されていた。時系列順に政策を簡単に知りたい。

調べ方

・「公開市場操作」、「預金準備率操作操作」で再び事典引き。
・そのほかは、ニッポニカの記述を参照すれば分かる。

活用方法

 

備忘・キーワード

 

参考:金融政策 

精選版 日本国語大辞典の解説
?名? 政府または中央銀行が金融市場を通じて、資金の円滑な需給と通貨価値の安定とを図るために行なう政策。その手段として、公定歩合、公開市場、支払準備率などを操作する。
外国為替用語集の解説
金利通貨供給量を調節することで、物価の安定をはかり経済の動きを調整する、中央銀行の政策。金利政策、公開市場操作、支払準備率操作(預金準備率操作)という3つの代表的な手段がある。
FX用語集の解説
政策金利を上げたり(利上げ)、下げたり(利下げ)をして調整し、それによって経済の安定的な成長を目指すこと。金融政策は各国の中央銀行がそれを行う権限を有しております。
デジタル大辞泉の解説
通貨当局、特に中央銀行が、基準割引率および基準貸付利率(公定歩合)操作・公開市場操作・預金準備率操作などの手段によって物価の安定や景気の調整を図ろうとする政策。通貨政策。→経済政策 →財政政策
世界大百科事典 第2版の解説
金融政策は財政政策,産業政策などと並ぶ経済政策の一つであり,中央銀行または中央銀行に代わる政策当局によって行われる。
[政策の目的]
経済政策の究極の目的は国民福祉の向上であり,〈物価の安定〉〈低い失業率の達成,維持〉〈生活水準の向上〉〈国際収支の改善〉などがあげられるが,金融政策についてはとりわけ〈物価の安定〉〈貨幣価値の維持〉が重視される。〈貨幣価値の安定〉という場合には,対外価値つまり為替レートの安定が含まれる。
ナビゲート ビジネス基本用語集の解説
日本銀行中央銀行)が景気を安定させるために金融市場に対して行う経済政策のこと。景気が後退した際に行われる金融政策を金融緩和といい、景気が過熱した際に行われる金融政策を金融引き締めという。主に次の3つの手段がある。 ・政策金利操作 ・公開市場操作 ・預金準備率操作 なお、1994年に民間金融機関(市中銀行)の金利が自由化されて以来、政府が以前のように公定歩合の調節によって民間金融機関の金利を操作することはできなくなった。そのため、現在の政策金利公定歩合ではなく、民間の金融機関同士が短期資金を貸借するコール市場金利無担保コール翌日物」であり、これが金融政策による操作の対象とされている。
世界大百科事典内の金融政策の言及
【貸出政策】より
…このうち金利操作の政策は,公定歩合政策または金利政策という(広く金利操作の政策一般を金利政策ということもある)。貸出政策は,手形・債券売買操作,支払準備率操作,市中貸出規制(窓口規制)等の政策手段とともに,通貨供給量(マネー・サプライ)や市中金利を操作しようとする金融政策の重要な一政策手段である。すなわち日銀貸出しの量と金利を操作することにより,民間金融機関の支払準備あるいは短期資金の量とコストに影響を与え,民間金融機関の民間非金融部門(企業,家計等)への貸出行動,ひいてはマネー・サプライに変化をもたらす政策である。…
ケインズ学派】より
…そこで不況の状態を脱出するにはいかなる方策があるかを考えると,有効需要の原理によって総需要の水準を引き上げればよいことがわかる。財政・金融政策とよばれるものは,いずれも総需要に影響を与えることによりGNPの水準をコントロールしようとするものにほかならない。先にみたとおり,政府による公共的支出は直接総需要の一部をなすものであるから,これは当然総需要に影響を与える。…
【窓口規制】より
日本銀行が用いている金融政策の一つの手段。都市銀行を中心とする主要な民間の銀行・金融機関が民間の企業などに供給する貸出額の過度の増加を防止することを狙いとして,日本銀行がこれら銀行・金融機関の四半期(3ヵ月間)貸出増加額に対し,上限を設定することを通じての信用規制をいう。…
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
各国の中央銀行が、金利通貨供給量を調整することで物価の安定を図り、国民経済の健全な発展に資することを目的として実施する経済政策。[白井さゆり 2016年12月12日]
伝統的な金融政策の枠組み
日本銀行政策委員会金融政策決定会合において金融市場調節方針が決定され、その方針に沿って日本銀行が金融市場に対して資金供給または資金吸収(公開市場操作、オペレーション)を日々実施することで、短期の市場金利を誘導する。一般的に、金融市場調節の操作対象として短期金利を採用することが多く、その金利は「政策金利」ともよばれる。日本銀行では無担保コールレート(オーバーナイト物)を採用してきた。おもな資金供給手段として、共通担保資金供給オペレーション国債などを担保にとって金融機関へ貸し付けて資金供給)、資産買入れオペレーション(国債国庫短期証券などを買い入れて資金供給)、国債買現先(かいげんさき)オペレーション(国債国庫短期証券をあらかじめ定めた期日に売戻し条件付きで買い入れて資金供給)などがある。一方、おもな資金吸収手段としては、手形売出しオペレーション(日本銀行が振り出した手形を売却して資金吸収)、国債売現先オペレーション(日本銀行保有する国債などをあらかじめ定めた期日に買戻し条件付きで売却して資金吸収)、国庫短期証券の売却オペレーションなどがある。
 その他の貸付制度として「補完貸付制度」(ロンバート型貸出制度)がある。金融機関からの借り入れ申請を受けて、担保の範囲内でいつでも受動的に資金を融通する仕組みで、貸付期間は1営業日である。適用利率は、2008年(平成20)12月以降、年0.3%が維持されている。金融機関はこれより高い金利で金融市場から資金調達をするとは考えにくいため、同利率が短期の市場金利の上限を形成している。
 また、「補完当座預金制度」は、日本銀行が受け入れる当座預金などのうち、「所要準備額」(金融機関の預金に対して預金準備率が適用される金額)を除いた、「超過準備額」に対して利息を付す制度である。2008年に補完当座預金制度が導入されて以降、付利は2016年1月末の金融政策決定会合でマイナス金利の導入を発表し、翌2月16日に実施するまでは、年0.1%が適用されてきた。補完貸付制度の適用利率と補完当座預金制度の付利が、それぞれ金融市場の金利の上限と下限を形成し、操作対象である無担保コールレートがこの範囲内で推移する傾向があることから、これら二つの金利は「コリドー(回廊)」とよばれる。
[白井さゆり 2016年12月12日]
物価安定目標の導入
2013年1月の金融政策決定会合において、総裁白川方明(しらかわまさあき)のもとで、物価の安定目標として消費者物価指数(CPI)の対前年比上昇率2%が採用された。その際、物価の安定の概念的な定義として、家計・企業などが「財・サービス全般の物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」であり、かつ経済の持続的な成長と整合的であることと説明している。こうした理解のもとで、同目標をできるだけ早期に実現すると約束した。政策目標として消費者物価指数を採用したのは、国民の実感に即した、家計が消費する財・サービスを包括的にカバーした指標であり、しかも速報性が高く、基準改定が5年周期と長いことなどを重視したためである。
[白井さゆり 2016年12月12日]
非伝統的な金融政策
1990年代初めに不動産と株式などのいわゆる「バブル崩壊」を経験し、その後1990年代後半に金融危機に直面した。この間、一時的な景気回復局面がみられたものの、長期にわたって景気後退とマイナスの需給ギャップ(すなわち、需要不足状態)に陥った。CPIと「コアCPI」(CPIから生鮮食品を除いた指数)ともに伸び率が低下を続け、1998年(平成10)ころからは緩やかなマイナス(すわなちデフレ)が続くようになった。そうしたなかで、以下の非伝統的政策が採用されるに至っている。
[白井さゆり 2016年12月12日]
「量的・質的金融緩和」導入以前(1999年2月~2013年3月)
〔1〕ゼロ金利政策(1999年2月~2000年8月) 無担保コールレート(オーバーナイト物)をできるだけ低めに推移するよう促し、短期金融市場に混乱の生じないようその機能の維持に十分配意しつつ、当初は0.15%前後を目ざし、その後は市場の状況を踏まえながら徐々に一層の低下を促すという、いわゆる「ゼロ金利政策」を導入。また、「デフレ懸念の払拭(ふっしょく)が展望できるような情勢」となるまでゼロ金利政策を継続するとの方針を明確化することで金融緩和を強化した。こうした将来の金融緩和方針を示す手法は、「時間軸政策」、または「フォワドガイダンス」とよばれる。2000年8月に需要の弱さによる物価低下圧力は大きく後退し、ゼロ金利政策の解除の条件である「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至ったと判断してこれを解除し、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.25%前後へと引き上げた。しかし、このときのゼロ金利政策解除の判断については、デフレから脱却していないなかで早過ぎたとの見方が少なからずある。
〔2〕量的緩和(2003年3月~2006年3月) 2000年のアメリカITバブル崩壊によって日本では輸出と生産が大きく減少し、物価の下落が続いてきた。そのため、日本銀行は2001年3月に「量的緩和」政策の導入を決定した。このとき、金融市場調節方針の操作対象である無担保コールレート(オーバーナイト物)はすでにゼロ%近くにあり、これ以上金利は下げられないと判断し、量的緩和を決定した。量的緩和には次の特徴がある。
(1)金融市場調節の誘導目標の変更:無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更。目標額は当初の5兆円程度から9回引き上げられて2004年1月には30兆~35兆円程度に達した後、量的緩和の解除まで同目標額を維持した。この目標額はおもに期間1年以内の短期の資金供給オペレーションを繰り返すことで達成された。また、必要があれば国債買入れを増額することも決定した。
(2)量的緩和の継続についての方針の明確化:日本銀行は、「コアCPIの対前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで」量的緩和を維持すると約束した。いわゆるフォワドガイダンスである。2003年10月にこの方針をより明確化し、出口の条件として、第一に、直近公表のコアCPI対前年比上昇率が単月でゼロ%以上となるだけでなく、基調的な動きとしてゼロ%以上であると判断できることが必要であるとし、第二に、コアCPI対前年比上昇率が先行きふたたびマイナスになると見込まれないことが必要(多くの委員がゼロ%を超える見通しを有していることが必要)であるとした。ただし、これらの条件は必要条件であって、経済・物価情勢によっては、これらの条件を満たしたとしても量的緩和の継続が適当と判断される場合もあるとも明記した。
 2005年11月にコアCPIの対前年比上昇率はプラスに転じた(CPIは2006年1月にプラスに転換)。そこで、日本銀行は2006年3月に量的緩和解除の条件がすべて満たされたと判断してこれを解除し、金融市場調節の操作対象を無担保コールレートに戻して当初はおおむねゼロ%の誘導目標を設定した。もっとも、2006年8月にはCPIの基準年が2000年から2005年に改定され、それまでプラスの値とされた伸び率がマイナスに修正されたため、事後的にみれば解除条件を満たしていなかったことが判明した。CPIの下方修正は過去のトレンドと比べてかなり大きく、日本銀行の予測を超えるものではあったが、解除については、CPIの改定を待って判断すべきだったとの批判や、解除の決定は早計だったとの批判も聞かれた。
〔3〕包括的金融緩和(2010年10月~2013年3月) リーマン・ショック後の景気後退を背景にして、2010年10月に包括的金融緩和政策の導入を決定した。同時に、金融市場調節方針における金利誘導目標である無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.1%程度から0~0.1%程度に変更して、実質的なゼロ金利政策を採用した。包括的金融緩和は次のような特徴をもつ。
(1)金融緩和の継続についての方針:「中長期的な物価安定の理解」に基づく物価安定が展望できる情勢になるまで、実質的なゼロ金利政策を継続するとの約束を取り決めた(フォワドガイダンス)。中長期的な物価安定の理解とは、CPIの対前年比上昇率が「2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心」という表現で示された。さらに2012年2月に同方針は大きく変更された。中長期的な物価安定の「理解」から「目途(めど)」(英語ではgoalと翻訳)へと変更されたが、これは各委員の見方を網羅した「理解」から委員全員が合意したことを示す「目途」の採用へと前進したことを意味する。そのうえで、目途は「2%以下のプラスの領域」にあるとして「当面は1%を目途」と定義し、目途は原則1年ごとに点検することとした。さらに、「物価上昇率1%を目ざして、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と資産買入等の基金による金融資産の買入れ等の措置により、強力な金融緩和を推進していく」として、方針の内容を強化した。なお、金融緩和の継続は、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないことを条件とすると明記された。
(2)資産買入等の基金の導入:買い入れる資産は、(残存期間が1~3年までの)国債国庫短期証券社債コマーシャルペーパー(CP)、指数連動型上場投資信託受益権(ETF)、不動産投資法人投資口 (J-REIT(ジェーリート))から構成された。既存の3か月物と6か月物の「固定金利方式の共通担保資金供給オペレーション」の運用は継続された。これを含む同基金による残高は、当初は2011年末までに35兆円に増額することを決定したが、その後数回にわたって引き上げられ、2013年末までに101兆円、2014年中に111兆円まで増額することが予定されていた。しかし過度な円高と緩やかなデフレが続き、2013年1月に掲げたCPIの対前年比上昇率2%の物価安定目標の達成にはこれらの金融緩和手段では不十分との批判が強まった。
[白井さゆり 2016年12月12日]
「量的・質的金融緩和」導入以降(2013年4月~ )
2013年4月に、総裁に3月下旬に就任したばかりの黒田東彦(くろだはるひこ)の最初の金融政策決定会合において、CPIの対前年比上昇率2%の物価安定目標を2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するために、非伝統的な「量的・質的金融緩和」政策が採用された。通称、「異次元緩和」「黒田バズーカ」「超金融緩和」ともよばれる。同政策のもとで、金融調節方針の操作目標を無担保コールレートから、量的な金融緩和を推進する目的で「マネタリーベース」に変更した。マネタリーベースは、日本銀行当座預金日本銀行券発行高、および貨幣流通高の合計である。2013年4月当初は年間約60兆~70兆円に相当するペースでマネタリーベースを増加させるように金融市場調節を行っていたが、2014年10月に年間約80兆円に相当するペースで増加するよう、マネタリーベース増加額を拡大した。
〔1〕量的・質的金融緩和 「量的・質的金融緩和」(QQE)のうち、「量的金融緩和」とは金融市場調節方針の操作目標であるマネタリーベースの増加をさす。量の拡大を目的とする金融緩和では大量の資金供給が必要なため、資金供給手段は銀行への貸付よりも多額の国債買入れが中心となる。国債は残存期間が1年以下から最長40年まですべての年限のものを買い入れており、当初は長期国債保有残高を年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買い入れを行う方針であったが、2014年10月に年間約80兆円に相当するペースで増加するよう、買い入れペースを増加させた。
 「質的金融緩和」とは、リスク性資産の買入れや国債買入れの平均残存期間を延長する経済政策をさす。資産価格のリスク・プレミアム(投資家が国債対比で要求する超過利回り)を下押しするために、リスク性資産としてETFJ-REITを大規模に買い入れた。ETFの年間買入れ額については2013年4月の1兆円程度から2014年10月に3兆円程度へ、さらに2016年7月には6兆円程度へ増額した(このうち、3000億円は2002年に金融機関から買い入れた株式の売却未完了分について、2016年4月から10年かけて毎年3000億円程度売却する金額に相当するもので、売却による株式市場への影響を相殺するためにほぼ同額のETFの買入れを行う)。J-REITの年間買入れ額については2013年4月の300億円程度から2014年10月に900億円程度へ増額した。社債コマーシャルペーパーについては「包括的金融緩和」のもとで買い入れた資産の残高維持のための再投資を実施した。一方、国債買入れの平均残存期間については2013年4月の7年程度(6~8年)から2014年10月に7~10年程度へ、2015年12月に7~12年程度へと長期化を図った。
〔2〕マイナス金利付き量的・質的金融緩和 2016年1月に、量的・質的金融緩和に加えて、新たな政策手段としてマイナス金利政策を導入しており、それ以降は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」とよばれる。「量」「質」「金利」の3次元の金融緩和手段を活用してCPIの対前年比上昇率2%の物価安定目標の早期実現を図った。ここでいう「金利」とは、マイナス金利をさす。具体的には、日本銀行当座預金を三つ(基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高)に区分し、それぞれ年0.1%、0%、マイナス0.1%の金利を適用しているが、このうちの政策金利残高に適用されるマイナス0.1%をさす。マイナス金利は、2016年時点では日本銀行当座預金のごく一部(10兆~30兆円)に適用されているにすぎないが、新しく増える当座預金に適用されており、マイナスの付利は金融機関が日本銀行に利息を支払うことを意味するため、金融機関としては日本銀行当座預金を減らし、かわりに融資を増やすというインセンティブが働くと考えられている。
 日本銀行当座預金の3層構造方式は、マイナス金利の適用が金融機関の収益を過度に圧迫し、金融仲介機能を弱めることを防ぐ観点から、さまざまな形式でマイナス金利の免除措置を設けているスイス、スウェーデンデンマークなどの事例を参考にして導入された。しかし日本の場合、多額の国債買入れにより当座預金の増額ペースが大きいために金融機関の利息負担が重くなる。そのため、一定額を政策金利残高からマクロ加算残高に移す仕組みを導入して金融機関の利息負担の抑制に努めたが、その結果、しくみが複雑となり市場や国民の理解が得にくいという課題が残った。
 マイナス金利の適用によって、短期金融市場においてもマイナス金利で銀行間取引が成立しやすくなることで、イールドカーブの起点を引き下げる効果が期待された。それまで継続してきた大規模な国債買入れとあわせて、イールドカーブ全体に強い下押し圧力が加わることで、実質金利を引き下げ、消費・投資などの総需要を拡大し、それにより物価上昇圧力が高まることが想定された。また、企業によっては低金利での長期社債の発行が可能となった。しかし、いくつかの副作用も指摘された。たとえば、すでに預金金利が0%程度に近い状態のもとで貸出金利が低下したために銀行の利鞘(りざや)が縮小し、貸出しが伸び悩むなかで銀行収益を減少させる結果となった。マイナス金利の導入後、国債利回りの多くの年限のものがマイナスになり、かつ国債イールドカーブが極端にフラット化したため、短期的には保有国債の評価益や売却益が得られるものの、やや長い目でみた運用収益を減少させることになった。マイナス金利で運用できない金融機関・投資家の撤退などもあって、国債流動性の低下もみられた。
〔3〕マイナス金利付き量的・質的金融緩和の継続方針 マイナス金利付き量的・質的金融緩和の継続方針については、CPIの対前年比上昇率2%の物価安定目標の実現を目ざし、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続すると定めた。また、経済・物価のリスク要因を点検し、同目標の実現のために必要な場合には、量・質・金利の三つの次元で追加緩和措置を講じると表明した。経済・物価のリスク要因には、ハイパーインフレ、デフレ、バブル生成などの金融不均衡、国債市場の流動性の低下などが含まれており、これらのリスクを点検しながら金融政策運営を実施することとした。
〔4〕その他の資金供給制度
(1)成長基盤強化と貸出増加を支援するための資金供給:成長基盤強化と貸出増加に向けた金融機関の取り組みを金融面から支援する目的で、まず、2010年6月に成長基盤強化を支援するための資金供給オペレーションを、次に、2012年12月に貸出増加を支援するための資金供給オペレーションを、おのおの、時限措置として導入した。4年間の低利で貸し付ける制度で、マイナス金利導入以降は0%の金利が適用された。
(2)成長基盤強化を支援するための資金供給:日本経済の成長に資する19項目(研究開発、起業、事業再編、観光、環境・エネルギー事業、医療・介護・健康関連事業など)への投融資を行う金融機関に対して、その内容を確認したうえで、低利・長期の資金を供給する仕組み。基本となる貸付枠のほかに、出資・ABL(動産・債権担保融資)等向け特別枠、小口向け特別枠、アメリカ・ドルを用いた特別枠がある。
(3)貸出増加を支援するための資金供給:貸出残高を増やした金融機関に対し、増加額実績の2倍相当額まで、低利・長期の資金を供給する枠組み。資金供給総額には上限が設定されていない。
[白井さゆり 2016年12月12日]
アメリカの金融政策
アメリカの金融政策は、アメリカ独特の中央銀行制度である連邦準備制度(FRS)により実行される。
 連邦準備制度は、連邦準備制度理事会FRB)と12の連邦準備銀行から構成される。FRB連邦準備制度を統括しており、議長、副議長を含む7人の理事で構成される。金融政策は、連邦公開市場委員会FOMC)のメンバー12名で決定される。FOMCのメンバーはFRBの7人の理事とニューヨーク連邦準備銀行の総裁が常任しており、他の4人は残る11の連邦準備銀行から持ち回りで参加し、投票権をもつ。なお、投票権がない連邦準備銀行の総裁も金融政策運営の討議に参加している。年4回の経済・物価見通しは19名全員が提示する。
[白井さゆり 2016年12月12日]
サブプライム危機へのFRBの対応
2008年のサブプライム危機は、通常の信用貸出の急増に基づく単純な銀行危機とは異なっていた。さまざまなノンバンクを含む大規模な金融システムのもとで、幅広くかつ複雑な金融商品――たとえば、住宅ローン担保証券MBS)、MBSに対する保険契約であるクレジット・デフォルト・スワップ、その他の資産担保証券(ABS)――などがかかわっており、ヨーロッパなど国際的にもシステミックに連鎖する大規模な金融危機であった。FRBは、2008年3月には投資銀行ベアー・スターンズを救済するためにJPモルガン・チェースとの合併に関与し、その後、巨大保険会社のAIGの救済などを実施した。ベアー・スターンズAIGを救済した根拠として、これらのノンバンクが巨大かつシステミックに他の金融機関や商品とリンクしていること、および債務超過に陥っていなかったためとFRBは指摘している。一方、投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)を容認したのは、債務超過であったことやFRBに救済権限がないと判断したためと説明している。
 しかし、リーマン・ブラザーズの破綻は、リーマン・ショックとなって世界金融危機へと発展した。アメリカの短期金融市場で資金が枯渇すると、FRBはノンバンクやマネーマーケットミューチュアルファンド(MMMF:money market mutual fund)、コマーシャルペーパー(CP)市場などへ果敢に多額の資金を供給した。MMMFについては、それまで個人投資家を中心に預金のような商品として資金が流入してきたが、リーマン・ショックを契機に急速に資金が流出したため、FRBはMMMFによる資産の投げ売りによって金融危機が連鎖・深刻化するのを防ぐために資金供給を行った。CP市場はブローカー・ディーラーや資産担保証券(ABS)発行者、その他の金融機関による主要な短期資金の調達市場である。MMMFが資金の出し手であったことから、MMMFによる資金流出で資産担保証券発行者などの資金が枯渇して危機が波及するのを防ぐ目的で、資産担保証券発行者などにも資金供給を実施した。また、FRB保有する国債などの貸出しも実施した。これらの流動性供給手段によってFRBは最後の貸し手としての役割を果たしたとみなすことができる。
[白井さゆり 2016年12月12日]
非伝統的金融政策の採用
また、FRBは2007年9月に当時5.25%あったフェデラル・ファンド・レート(政策金利)の利下げを急ピッチで断行し、2008年12月には同レートは0~0.25%の過去最低水準に達した。この段階で、これ以上の利下げ余地は乏しいと判断したFRBは、低い金利水準を長く維持する方針(フォワドガイダンス)を示し、さらに資産も買い入れることによって非伝統的金融緩和政策を実施した。買入れ資産としては、アメリカの国債とエージェンシーとよばれる政府機関・政府支援機関が発行するMBSや債券を対象とした。
 その後、議長のバーナンキは2013年5月に、経済情勢が良好ななかで、年末に向けた資産買入れ額の減額(テーパリング)の可能性を示唆した。しかしこれが市場に大きな負のサプライズを起こし、金利は急騰した。これは、一般的には「テーパータントラム」(Taper Tantrum)とよばれている。しかし、その後、経済が回復基調を強め、雇用の改善が顕著で予想以上の速さで失業率が低下したため、市場に大きな混乱を起こすことなく2013年12月のFOMCで資産買入れ額の減額を決定し、翌2014年1月(バーナンキの議長としての最後の会合)から実施すると決めた。資産買入れ額の減額は同年10月に終了し、保有する資産の残高維持のための再投資は継続した。2015年12月には新議長ジャネット・イエレンのもとで最初の利上げを果たし、フェデラル・ファンド・レートを0~0.25%から0.25~0.5%へ引き上げている。
[白井さゆり 2016年12月12日]
EUの金融政策
ヨーロッパ連合EU)の金融政策はヨーロッパ中央銀行(ECB)と、共通通貨ユーロを採用する19か国の中央銀行が参加するヨーロッパ中央銀行制度(ESBC:European System of Central Banks)により実行される。ユーロ圏の物価安定を実現し、ユーロの購買力(通貨価値)の維持を目的とする。物価の安定についてはインフレ率「2%未満、2%近傍」と定義している。
[白井さゆり 2016年12月12日]
世界金融危機後のECBの対応
リーマン・ショック世界金融危機に発展すると、ユーロ圏は銀行危機に直面した。そこで、ECBは政策金利(メインリファイナンス金利)を2008年10月の4.25%から2009年5月にかけて1%まで積極的に引き下げた。また、資金供給オペレーションを拡充して平常時よりも長期間の資金を融資し、固定金利で応札額全額を供給する仕組みを導入した。2010年初めにギリシアを発端にしたユーロ債務危機が深刻化し、こうした債務国(周縁国)がデフォルトしてユーロからの脱退を迫られるといった不安が投資家の間で浮上し、ユーロの崩壊懸念が高まった。そこで、ECBは2010年5月から2012年3月までの間に、周縁国の国債を限定的に買い入れる「証券買入れプログラム」(Securities Market Program)を導入し、合計2200億ユーロ相当の買入れを実施した。また、2009~2012年に「カバードボンド買入れプログラム」(Covered Bond Purchase Program)を導入し、担保付き証券を合計100億ユーロ相当買い入れた。
[白井さゆり 2016年12月12日]
OMTの導入と訴訟
その後、ユーロ債務危機がふたたび深刻化したため、2012年7月にECB総裁マリオ・ドラギは、「ユーロを守るためになんでもする用意がある」と発言し、その直後の8月に金融緩和プログラム(Outright Monetary Transactions:OMT)を発表、翌9月にOMTを実施可能とした。OMTは、ユーロ圏加盟国がヨーロッパ連合EU)と国際通貨基金IMF)の経済プログラムあるいは予備的プログラムを実施するという条件付きで、残存期間1~3年の国債を買い入れるという内容である。結局、OMTは一度も使われなかったが、スペインやイタリアの国債も必要があれば無制限に買い入れることが可能だとの強いメッセージを市場に送ったことで、ユーロ崩壊リスクを招きかねない投機攻撃がおさまった。この対応は、ユーロ圏の金融市場の安定化に貢献したことで高く評価されている。ただしOMTについては、ドイツ憲法裁判所に対してドイツ憲法EU条約に違反しているとの訴訟が起こされ、ドイツ憲法裁判所はヨーロッパ司法裁判所に対してOMTがEU条約のもとで違法性があるかどうかの裁定を付託した。2015年1月にヨーロッパ司法裁判所の法務官は、OMTは一定の条件を満たす必要があるが、原則、合法であるとの判断を示した。これを受けて2015年6月にヨーロッパ司法裁判所は「OMTは合法である」との最終判決を出した。そして、ドイツ憲法裁判所は2016年6月に、六つの条件を満たす場合に、ECBはドイツ憲法に抵触せずにOMTを実施できるとした。その条件には、国債発行環境が歪(ゆが)まないこと、買入れ価格は当初から制限されることなどが含まれている。
 また、2011年12月と2012年2月の2回にわたり3年物の長期資金供給オペレーション(Longer-Term Refinancing Operations:LTRO)も実施し、ユーロ圏周縁国の銀行が資金調達する際の費用の低下に寄与した。
[白井さゆり 2016年12月12日]
本格的な非伝統的金融政策の開始
その後、低インフレの長期化、予想インフレ率の低下、銀行の資産縮小、ユーロ高などを懸念して、2014年6月以降、ECBは包括的な金融緩和政策に着手した。ECBの預金ファシリティ金利にマイナス金利を適用して、2014年6月にマイナス0.1%とし、その後、段階的に引き下げて2016年3月にはマイナス0.4%としている。当初は資産買入れを回避するためにマイナス金利政策を導入し、資産買入れ決定後は、資産担保証券(ABS)やカバードボンドなどに限定した。しかし、予想インフレ率の低下が止まらなかったことや、低インフレの長期化によって実質金利が上昇しデフレに陥る懸念が高まったことから、2015年1月に大規模資産買入れ方針を発表し、同年3月から開始するに至った。買入れ資産は段階的に拡大しており、2016年11月時点では、2017年3月まで国債、政府機関債、国際機関債、地方債、社債などをあわせて毎月800億ユーロの買入れの実施を公約している。この資産買入れにあたっては、買入れ価格の下限、買入れ額の上限、各国ごとの国債買入れ配分方法などについて制約を課しており、こうした制約は前述のヨーロッパ司法裁判所の判決で指摘された条件とかなり整合的である。
 このほか、2014年9月に民間貸出しの実績をもとに長期資金を低利で貸し出す制度(Targeted Longer-Term Refinancing Operations:TLTROⅠ)を導入し、2016年6月まで四半期ごとに実施した。銀行による民間への貸出実績をもとにECBはその3倍までの金額を低い貸出金利(2016年3月からは0%)で貸し出している。LTROとの違いは、ECBの銀行への貸出しを、銀行による民間貸出しの実績に応じて資金供給枠が付与されることで、銀行がECBから調達した資金を貸出しよりも国債などの購入にあてることを抑制するくふうをしたことにある。なお、ECBから銀行が借り入れる時期は2018年9月までと設定されている。さらに、2016年3月にTLTROⅡを導入し、借入れ期間を4年の固定とし、一定以上の民間貸出しを増やす銀行ほど低利の貸出金利(最低金利は、預金ファシリティ金利で、2016年11月時点で、マイナス0.4%)で資金供給を受けられるようになった。
 しかし、ECB内では、ドイツやオランダなどユーロ圏コア国によって、資産買入れやマイナス金利政策などの金融緩和効果を疑問視する批判的な意見がよく聞かれる。ECB理事会でこうした政策を決定する場合も、理事会メンバーが全員一致でない場合もしばしばみられる。さらに、それらの金融緩和手段がユーロ圏の総需要の拡大やインフレ率の引き上げをもたらす効果が限定的だとの見方も強まりつつあり、実際に追加緩和をしてもユーロ安が起きにくくなっている。加えて、マイナス金利政策や国債利回りのマイナス化によって、ドイツなどコア国を中心とする金融機関の収益性が低下したり、ECBへの利息の支払い負担が重石(おもし)になっているとの批判も強まっている。しかし、ECBの金融緩和は総需要を拡大するというよりも、信用緩和を目的としている。周縁国の銀行のなかには資産縮小が続き、不良債権比率が大きく資本不足をきたし、貸出しに慎重になるところもあり、それが周縁国の景気回復を遅らせている可能性がある。そのため、そうした銀行の資金調達費用を引き下げて信用貸出しを促すねらいがあり、この点では一定の効果があったといえる。
[白井さゆり 2016年12月12日]
中国の金融政策
中国の金融政策は中央銀行である中国人民銀行によって実行され、これまでは人民元をおもにアメリカ・ドルに対して安定させる為替(かわせ)政策が中心であった。もともと中国の金融市場においては、中国に対する高い成長期待や海外との金利差、および居住者による対外投資のほうが外国からの資本流入よりも規制が厳格であるといった資本規制などもあって、海外からの多額の資金流入に長く直面してきた。経常収支の黒字と資本の純流入によって国際収支は大幅な黒字を計上しており、人民元は常に増価(人民元高)圧力が高い状態にあった。そのため中国人民銀行外国為替市場で頻繁かつ大規模に人民元売りの介入を続けて、ドルなどの外貨準備を4兆ドル程度まで蓄積してきた。このように、人民元を市場に供給することで人民元の増価圧力の抑制に努める為替政策が、中国の金融政策の中心であった。人民元はそうした為替介入もあって経済ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)からみて過小評価状態にあったため、人民元増価期待も高まりやすく、投機的な短期資金の純流入も多くみられた。
[白井さゆり 2016年12月12日]
資本流出人民元安期待への転換
世界金融危機以降、中国は大型景気対策によって高い成長率を維持したが、過剰生産、過剰投資、過剰債務といった弊害も顕在化した。経済成長率は人口動態の変化、構造改革の遅れ、および投資から消費へのリバランス(配分調整)の遅れもあって、しだいに低下した。実質成長率は2014年の7.3%から2015年には6.9%へ低下し、かろうじて政府の2015年の年間目標である7%前後を達成した。このため、中国に対する成長期待も低下し、金利も金融緩和によって徐々に引き下げられたため海外との金利差も縮小した。世界金融危機以前から人民元は緩やかな増価(人民元高)基調にあったが、2014年にドルが多くの通貨に対して急速に増価する(ドル高になる)と、ドルに対して安定させている人民元も急速に増価した。その結果、人民元の過小評価状態はほぼ解消された。そうしたなかで、2014年ころから中国本土からの資本流出が続く状態がみられるようになり、長く続いた人民元高圧力と人民元高期待から、逆に人民元安圧力と人民元安期待へと大きな転換がみられた。ここには、2014年にアメリカが資産買入れ額の縮小(テーパリング)を実施しアメリカの金利が急騰したことに加え、政策金利フェデラル・ファンド・レート)の引上げによる金融政策の正常化が意識されるなかで、中国企業がドル高期待から短期ドル建て債務の返済を急いだことや、中国企業が海外収益の一部を中国本土に還流させずに海外に留める姿勢を強めたことも影響しているとみられる。
[白井さゆり 2016年12月12日]
2015年の人民元の切下げ
中国人民銀行は、2014年3月から人民元の対ドル相場を中間値の上下2%の範囲内で日次推移するよう誘導していた。毎日早朝にその日の人民元の中間値を設定していたが、前日の終値との相関性が低く、おもに中国人民銀行の政策意図が反映されているとみられていた。しかし、市場の実勢相場(たとえば前日の終値)と中間値の乖離(かいり)が大きくなって、3%を超えるようになってきた。そのような乖離を持続することは不可能と判断し、乖離を縮小するために人民元を切り下げることとし、2015年8月11日から13日にかけてドルに対する中間値を3日連続して合計4.5%切り下げた。しかし、この切下げ幅は従来の為替相場の変動範囲を超えており、世界に人民元ショックを引き起こした。その政策判断自体は適切であったが、輸出が伸び悩んでおり、しかも鉄鋼、セメントなどの過剰生産問題が深刻ななかで、十分な対外説明のないまま突然人民元の切り下げが行われたことで、世界は中国が元安誘導によって輸出を促進する意図がある、と誤って受け止め、世界の金融市場の不安定化を招いた。同年7月末からの株価の下落とともに中国経済への懸念と中国政府の政策意図への不信感が高まって、世界各国がリスク回避姿勢をとることにつながった。
 その後、中国政府は人民元をドルに対してよりも通貨バスケットに対して安定化させる、より柔軟な為替政策へ軸足を移した。2015年12月には、中国外貨取引センターが13の主要通貨からなる通貨バスケットに対する人民元の指数を公表し、そうした意図を示唆した。しかしそれがかえって人民元の対ドル相場を減価させる意図があるととらえられて世界の金融市場を不安定化させ、中国の株価も下落した。この間、中国人民銀行は、人民元安期待が定着することで中国本土から資本流出が加速することをおそれて、人民元の対ドル相場に対する減価圧力(人民元安・ドル高)を緩和しようと、外国為替市場で介入を続けた。すなわち、外国為替市場に介入して外貨準備を取り崩してドル売り、人民元買いを実施するとともに、2016年度前後から既存の資本規制を厳格に適用することで資本流出の抑制(たとえば、企業による多額の外貨への両替に対して内容確認の徹底、外資系企業による本国送金に対する停止指示など)に努めた。また、ドルを中心とする外貨準備の取崩しによって人民元を市場から吸収したために中国の金融市場が引き締め的になった。そこで、中国人民銀行は銀行預金に対して適用する預金準備率の引下げ、基準金利の引下げ、および大量の資金供給オペレーションの実施などによって金融緩和に努めた。とはいえ、中国人民銀行は、大幅な金融緩和によって金利差が縮小すると、一段の資本流出を招くおそれや過剰生産・過剰投資・過剰債務問題をふたたび悪化させるおそれが生じることから、緩やかな緩和策を持続した。経済減速に対する景気対策は、おもに政府のインフラ投資や住宅購入促進政策などが中心である。その後、中国当局による既存の資本規制の厳格な適用やさまざまな介入もあって、為替市場や株式市場も落ち着きを取り戻した。
[白井さゆり 2016年12月12日]
人民元オンショア市場とオフショア市場
中国の金融市場には、オンショア市場(中国本土の市場)とオフショア市場(香港(ホンコン)を中心とする中国本土外の市場)がある。これらの市場は資本規制によって分断されているため、人民元相場も、オンショア相場(CNY)とオフショア相場(CNH)がある。中国人民銀行は、金融政策運営においてCNYに注目しているが、海外の投資家などは、より市場化が進んでいて需給を反映しやすいCNHに注目している。たとえば、人民元安期待が高まるような局面では、CNHのほうが、CHYよりも人民元安になる傾向がある。
[白井さゆり 2016年12月12日]
人民元のSDR通貨バスケット入り
2015年12月に国際通貨基金IMF)は、人民元IMF特別引出権(SDR)バスケット通貨の基準に適合していると判断し、ドル、ユーロ、ポンド、円に加えて5番目の通貨として2016年10月にバスケットに含めることを決めた。SDRはIMFが1969年に創設した国際準備資産である。通貨単位としても利用されており、IMFの加盟国に割り当てられる出資額(Quota)の評価に使われている。IMF理事会は5年ごとにSDR通貨バスケットの構成を見直しており、2015年がちょうどその時期にあたることから、中国政府は 2015年5月にIMFに対して、人民元についてSDR通貨バスケット入りに関する審査を要請した。IMF理事会はSDRバスケット通貨になるための条件は、(1)財・サービスの輸出額が大きいこと、(2)「自由に利用できる通貨」(Freely Usable Currency)であること、としており、審査の結果、全会一致で承認され、2016年10月から通貨バスケットに組み入れることが決定した。
 これに先だつ2010年のSDR通貨バスケットの構成の見直しの際にも、中国政府は審査を申請したが、当時は「自由に利用できる通貨」の条件に適合しないと判断され、採用されるに至らなかった。なお、自由に利用できる通貨とは、ドル、ユーロなどのように資本規制がなく完全に自由な交換が可能な通貨と同義ではない。中国のような新興国の場合、国際的な銀行取引や債券発行がまだ十分発達しておらず、資本規制も残るため、先進国と同じ条件を要求するのはむずかしい。バスケット通貨の数を増やす意向であるIMFは、そこで新たな基準を設けることとした。具体的には、各国中央銀行保有する外貨準備に当該国通貨が資産として保有されるようになっているか、外国為替市場においてスポット市場とデリバティブ市場で当該国通貨の取引量が増えているか、金利が市場化されているか、といった点に注目することにした。2000年以降、中国は自由利用可能な通貨として容認されるために、金融・資本市場の自由化、たとえば、国内預金金利の上限の撤廃、外国投資家による中国の資本市場へのアクセスの拡大、中国企業による対外直接投資の促進、貿易決済における人民元利用の促進などを推進してきた。また、20か国以上の中央銀行と二国間通貨スワップ協定を積極的に締結しながら人民元のオフショアセンターの形成に力を入れており、その結果、各国中央銀行はしだいに人民元建て預金や人民元の利用を増やした。こうした進展度合いや国内の金融・資本市場改革をIMFは評価したとみられる。
[白井さゆり 2016年12月12日]
[参照項目] | イエレン | イールドカーブ | 金融政策の操作目標・中間目標・最終目標 | 黒田東彦 | 公開市場操作 | コールレート | 政策金利 | ゼロ金利 | 短期金利 | 中央銀行 | 中国人民銀行 | 通貨バスケット | 日本銀行 | バーナンキ | フェデラル・ファンド金利 | フォワドガイダンス | 補完貸付制度 | マネタリーベース | ヨーロッパ中央銀行 | リーマン・ショック | 量的緩和 | 量的・質的金融緩和 | 連邦準備制度